日本は名馬の墓場か
- 現状
先日、種牡馬の種付け状況が発表され、サンデーサイレンスの仔息が日本の馬産界に非常に大きな影響を与えていることを改めて感じさせられた。サンデーサイレンスの血の飽和。それは、日本の生産界を将来的には縮小させることになるのではないか、という意見を生み出している。そこで、種牡馬について少し考えてみる。
- 名馬の墓場
日本の生産界が「名馬の墓場」と言われて久しい。ジャパンマネーに物を言わせて、海外で優秀な競走成績を挙げた馬を買い漁り、その馬が種牡馬となって、結果が出なくなった後も、海外に返却せずに、日本で飼い殺してきたという事実があった。
しかしながら、欧米で名種牡馬であった馬が、日本の生産界に輸入された例はない。サドラーズウェルズ、ダンチヒ、ストームキャットが輸入されることはないし、日本もサンデーサイレンスやノーザンテーストを輸出することはなかった。
なぜ名競走馬であった馬が日本に輸出されるかといえば、1.種牡馬に求める適正の違い、2.ジャパンマネー、3.種牡馬としての配合の融通性。これら3点が挙げられる。少なくとも、欧米の生産者が必要とする競走馬であるならば輸出されない。
また、欧米では成功しなかったであろう血統の馬、例えば、ヒンドスタンやパーソロンやテスコボーイなども日本では大成功を収めた。もちろん、個々の種牡馬能力が高かったのかもしれないが、日本への適正が高かったと見るのが妥当な意見だろう。
その一方で、当然ながら、輸入しても成功しなかった種牡馬もたくさんおり、社台もノーザンテースト以前は、種牡馬の導入に失敗し続けたのは、生産界の間では周知の事実である。そうした中に、アメリカの年度代表馬ファーディナンドが「日本で食肉処分された」という報道があった。(ファーディナンドの顛末)
そうした事実もある一方で、オールドフレンズのように種牡馬を返却する方法もあるし、エリシオやドクターデヴィアスなどが本国へ再輸出されている。
- 社台の作戦
社台がサンデーサイレンスの血を独占しているという意見もあり、確かに欧州やアメリカに種牡馬として輸出されていない事実もある。しかし、それは、欧米からサンデー産駒への種牡馬への評価があまり高くないことも挙げられるだろう。サンデーの血を海外へ広めるには、サンデー産駒が海外で実際に結果を残すことが、一番の方法なのであるが、それを阻害しているのは、日本の高額な賞金体制である。
しかし、社台は既に動き出しており、サンデーサイレンスを父に持つ繁殖牝馬に付ける、次世代の日本の生産界を担う種牡馬の導入に力を注いできたことも事実であり、アグネスワールド、アドマイヤコジーン、ウォーエンブレム、キングカメハメハ、グラスワンダー、クロフネ、サクラバクシンオー、ジャングルポケット、シンボリクリスエス、スウェプトオーヴァーボード、タニノギムレット、トウカイテイオー、トワイニング、ナリタトップロード、バチアー、ブラックホーク、フレンチデュピティ、ホワイトマズル、ファルブラヴ、フサイチコンコルド、メジロマックイーンなど、サンデーサイレンスの血を引かない馬たちも多数導入している。
- サンデー産駒の独占
サンデーサイレンス系が独占を続けるのは、トニービンやブライアンズタイムやリアルシャダイといった一時代を築いた種牡馬に後継種牡馬が生まれていないことも一因である。また、マルゼンスキーが父としてその血を後世に残すことが難しくなっているが、母として多くの繁殖牝馬にその血は活きている。そういった意味では、ジャングルポケットやタニノギムレット、ナリタトップロードが背負っていく責任は重い。
- 競走馬
競走馬は父と母からその能力を受け継ぐのが定説であり、種牡馬が優れていれば、それで産駒が全て活躍するわけではない。トウショウボーイは非市場原理の元で、優秀ではない繁殖牝馬と数多く交配されたことが、父系を残せなかったというのは、日経新聞の野元記者の見解である。
つまり、優秀な種牡馬と繁殖牝馬から名馬が生まれるのが一般的な論理であり、安価な競走馬が優秀な競走馬になる例は決して多くない。社台は、一流の種牡馬を集めると同時に、優秀な繁殖牝馬を輸入している。ディープインパクトの母ウインドインハーヘアの血統は、現在日本に集められている。こうした努力が社台の成功を支えている要因でもある。
- 不景気
日本の長期的な不景気により、外国産馬と輸入種牡馬が激減していることは事実であるが、クロフネやアグネスデジタル、エイシンプレストンといった優秀な競走成績を残す外国産馬は出現している。欧州やアメリカでもフサイチペガサスのような高額馬が活躍する一方で、1000万円前後でクラシック路線で勝ち負けする馬も多数いる。一概に、輸入頭数が減っているからといって、日本の競走馬レベル、あるいは、種牡馬レベルが落ちているとは言いがたい。
- 今後
個人的希望として、日本の生産界に行って欲しい事は2点あり、一つは欧米との種牡馬交換の迅速化。エリシオなどがそうであるように、日本で適正が合わないと判断した種牡馬は競走馬として活躍した地域からのオファーがあれば積極的に再輸出に踏み切って欲しい。もちろん、そこにはシンジゲートの問題などが絡むので、簡単にいかないことは承知の上での発言である。
もう一つは、やはりサンデーサイレンス産駒の輸出である。アドマイヤボスやブラックタキシードやニューイングランドなどの種牡馬人気を見ると、もはやG1馬という勲章はサンデー産駒には不必要なものに近く、母系の優秀さが繁殖牝馬を集める要因になっているようだ。
例えば、サンデー×リファール系はバブルガムフェローやロサードがいるので、どちらかを出す。あるいは、サンデー×マルゼンスキーのサクラプレジデントを輸出するなど、そうした積極的なサンデー系種牡馬の輸出を行ってほしいと思う。
しかし、これまで述べたことは、あくまでも一素人競馬ファンとしての意見であり、現場の生産者や海外の生産現場の実情を踏まえた意見ではないことを明記しておく。つまり、先日も述べたように、売れる馬作りという道に一番近い方法は、「サンデー系種牡馬を種付けする」ということであるだろうからだ。
現在の北海道の競馬産業の不振などを考えると、こうした意見を軽率に発言すべきでないのかもしれないが、そこは一ファンの戯言として許していただきたいとも思う。