降着についてまた一言

 傍観罪で終身刑さん経由で見つけた小島茂之厩舎の本音(公式ブログ)が面白い。特に、レース後の騎手との遣り取りや師がどのようにレースを観ているのかが臨場感たっぷりで分かる文章が良い。クロパラントゥーというキングマンボ産駒がいるので応援しているが、現状と将来の狭間が垣間見える。ファンによるPOGだと大抵はダービールールだから早く芝に使ってクラシックを見据えるレースを使って欲しいと思うが、こうした関係者が一から作り上げていこうとする過程を拝見すると、ダートでも放牧でも何でもいいからとにかく無事にという思いになる。
 日曜日の『ドリーム競馬』の麗奈ワルツの特集でも出てきたが、同世代で2歳競馬が始まってからシーズンが過ぎ3歳秋を無事に迎えられる馬は1割しかいないという。それだけに一つ勝つことの難しさ、競走馬を扱うことの難しさ、またその喜びを伝えてくれる関係者の声は貴重だ。
 師のブログにも書かれているが、ネットに書くことによるリスクもあるだろうとは思うが、我々素人がマスコミを介さずに現場の声を聞くことは非常に難しいので、是非頑張って続けていって欲しい。


 話は変わって。アドマイヤフジの騎手が祐一さんじゃなくてもいいが、スイープトウショウの騎手は池添騎手でないと駄目みたいな打ち合わせでもあるのか、その禊という訳ではなかろうが祐一さんがフサイチリシャール阪神Cを制覇し、一足先に年内の競馬を終了。お正月休みもいただいたようだ(前日10Rの斜行により開催4日間の騎乗停止)。


 日曜の阪神3Rではヤマカツブライアンが真横のドングラシアスにタックル。その後ろにいたコーリングユーやシンボリショパンあたりの末脚が一息だったおかげで、降着を免れた感がある。タックルの程度としては北海道で塚田騎手がクーヴェルチュールでやらかしたのと同じだろうとは思うが、あの時も直接のタックルを受けた被害馬であるトウカイファインの次ではなく、そのあおりを受けたネバーチェンジの次に降着だった。今回も、おそらくそのケースと同じ扱いと考えれば、やはり、たまたまコーリングユーあたりに脚がなかったことで降着にならなかったと考えるべきで、もう少しでまた多くの人々の的中馬券が紙屑にされる所だった(自分は買ってないが)。


 土曜の祐一さんのケースはジョウノオーロラが右側に斜行しているのに左鞭を入れ続けたことでビッグファルコンの進路を妨害した結果、降着処分。邪魔した直後に立て直しはいるだけに、もうワンテンポ前に立て直していれば降着にはならなかっただろうが、やってしまったものはしょうがない。これは被害馬に対する直接のケース。


 日曜日の阪神6Rでも降着が発生。

第6位に入線した2番ナムラカゲトラ号(渡辺 薫彦騎手)は、4コーナーで急に外側に斜行し、5番アルヴィス号(四位 洋文騎手)の走行を妨害したため、第11着に降着となりました。


 とのことだが、パトロールフィルムを見ると、この説明は若干違う。正しくは、ナムラカゲトラが4コーナーで急に外側に斜行し、14番エーシンマリポーサの走行を妨害し、そのあおりを受けたアルヴィスの走行を妨害したことにより、11着に降着となりました、というのが事象を正確に説明した文章のはず。JRA発表の文章でも結論からいえば間違いではないが、情報の正確性という意味においては少し意味が違うのではないだろうか。


 このケースはシリウスSと同じパターンで、内側からコーナーの惰性に任せてそのまま外に出そうとする乗り方。その結果、後続馬の進路を妨害するケースで、これで降着だとやっぱりあのシリウスSはなんで降着でないのかという話になる。


 降着や審議制度の話をすると必ずといっていいほど、裁決委員に騎手経験者を登用したらどうかという話がでてくる。競馬に乗ったことのないお役所仕事のてめぇらに何がわかるんだという声がイメージされるが、例えば、前述の傍観罪で終身刑さんのエントリーの中に出てくる水上氏の著書『競馬界に喧嘩売らせていただきます!―水上学のニッポン競馬に口アングリー』の中で「特に『裁決委員に対するジョッキーの口の利き方がひどい時がある』」らしい。


 プロ野球で審判に暴力をふるうのは審判がプロ野球選手の落ちこぼれ(不成功者)が多く、現役選手が審判を見下しているからというのがウチの大学の某教授の意見。
 NBAでは今年から審判に対する挑発行為を厳しく取り締まり、テクニカルファールを出す機会が増えているそうだ。それは、高校生などにマナーというか、審判に対する姿勢がなっていない選手が多く、バスケットプレイヤーが社会の模範であるように示すための制度だと生島さんが語っていた(この話はヘーと思ったので書いただけであんまり本文とは関係ない)。
 裁決に対して不平不満を語る騎手の意見はマスコミを通じて時々流れてくるが、裁決室で騎手がどのような態度であるかは、自分達にマイナスであるのかほとんど語られることがない。香港で騎乗停止になった時の話は「どうしようもなかった」というケースで語られる(藤田騎手の本に香港で騎乗停止にされた話が載っている)。


 裁決委員に元騎手経験者を登用するのは賛成だが、その一方で、ある程度の年長者でないと、プロ野球のケースのように「裁決委員のあんたは300勝しかしていないのに1000勝以上している俺に文句あんのかよ」みたいなケースが起こりえないとは限らず。岡部さんのように誰も口出せないような実績を残した騎手の言い分なら素直に耳を傾けるかもしれないが、三場開催の場合だと、それぐらいの器量のある騎手経験者がどこの競馬場にもいなくてはならない。
 それだけの実績があって、調教師でもなく、調教助手などでもない人がどれぐらいいるだろうかと考えると、実際に実績のある騎手経験者を裁決委員に据えるというのも、簡単なようで非常に難しい問題である。


 その人数を少なく抑える方法としては、降着等の処分をその場で決定せずに、一定時間おいてある程度の人数で議論し、決定を出す方法が考えられる。それだと騎手経験者も少なくて済むだろうし、パトロールフィルムを見ながら多くの裁決委員の意見も取り入られるだろう。ただ、JRAが審議後即騎乗停止期間を発表しているのは、翌週以降の騎手確保をできるだけ容易にしているのだろうと思われる。そのあたりが一定の期間を取ってみてはという方法のマインス点でもある。


 パトロールフィルムが公開されるようになったのもここ数年の話で、情報公開という意味では未だに少しずつ改善されている程度なので、劇的な変化は望めない。ファンを疑心暗鬼にさせないためにも、公正競馬を保つ制度の向上はより必要になるのではないか。