引き際の美学…なのか?

 ゼンノロブロイタップダンスシチースティルインラブアドマイヤグルーヴデュランダル。去年までのG1戦線を先頭で牽引してきた馬たちであり、今年苦杯を舐め続けている馬たちでもある。「もっと早く引退していれば良かったのに…」。果たしてそう言い切れるだろうか。

 今年の欧州は、モティヴェイター、フットステップインザサンド、シャマーダルも引退と期待の三歳馬が早々とターフから姿を消した。故障が原因でもあるし、欧州での3歳終了時の早期引退は決して珍しいことではない。

 しかし、そのような土壌では、天皇賞で敗れ、ジャパンカップでも敗れたオグリキャップ有馬記念。何度も骨折で引退の危機が囁かれたトウカイテイオー有馬記念。このような「奇跡の復活」は決して目にすることが出来なかっただろう。これが日本競馬だからこそ味わえるドラマかもしれない。

 先に挙げた馬たち。彼らが昨シーズンに引退しても決して責められはしなかっただろう。エルコンドルパサーグラスワンダースペシャルウィーク。この3頭が一同に会すことは一度たりともなかった。それはエルコンドルパサー凱旋門賞での引退を決めたからだ。

 テイエムオペラオーが4歳時に年間無敗の8連勝を達成した。それでもこの馬は翌年も走り続けた。トーホウドリームに敗れ、メイショウドトウに敗れ、アグネスデジタルに敗れ、ジャングルポケットに敗れ、そしてマンハッタンカフェに敗れた。それでもこの馬は走り続けた。それは非難されるべき事だろうか。

 オグリキャップトウカイテイオーが勝ったからこそ許される事かもしれない。しかし、スティルインラブの晩年の走りは、牝馬3冠の栄誉を傷つけただろうか。私はそうは思わない。彼女が走り続けたことには「意味」があった。そう信じているし、信じたい。


 スティルインラブエリザベス女王杯を前に引退し、デュランダルマイルCSの3連覇を打ち砕かれて引退した。アドマイヤグルーヴ阪神牝馬Sで引退を迎える予定だ。

 ゼンノロブロイタップダンスシチー。この対決も最後になるかもしれない。そして、そこにはディープインパクトがいる。彼らが昨年に引退していたとしても、誰も非難しなかっただろう。しかし、彼らは現役としてターフを駆けている。

 競馬の面白さの一つは、異世代との対決だ。それは、早期引退という言葉とは正反対に位置するものである。一時代を築きながら衰えつつある王者ゼンノロブロイタップダンスシチー。日本競馬の未来を任されたディープインパクト。この対決が実現することを素直な気持ちで喜びたい。

 彼らを「引き際を誤った馬」と呼ぶことも否定しない。それも一つの競馬観である。事実、この馬達は結果が出ていない。それでも、勝負に駆ける彼らの姿が、新たなる世代との対決が、日本競馬をより素晴らしいものへと運んでくれると信じている。

 とにかく無事に、元気に、「その対決の日」を迎えて欲しい。