競馬推奨文献

  • 森秀行調教師 『最強の競馬論』

『最強の競馬論』(講談社現代新書・2003.3)という森秀行調教師の著作があるが、競馬好きであるなら一度は目を通した方が良いと思われる。


 第1章 調教師という仕事
 第2章 馬の見方
 第3章 馬の個性
 第4章 種牡馬
 第5章 騎手
 第6章 調教
 第7章 番組
 第8章 海外
 おわりに―競馬社会のこれから


 「調教師は経営者」という書き出しで始まるように、森調教師はは古い体質(縁故やコネ)と言われる競馬社会に新しい風を吹き込む一人である。


 「競馬は勝つことに意義あるのはたしかだが、私は賞金を稼ぐことのほうがもっと大切だと思っている。極端な言い方をすれば、たとえ年間0勝だったとしても、十億円稼ぐことができればそれでいいと考えているのだ。調教師が経営者である以上、求めるものは、名誉ではなくあくまで売り上げなのである」と述べているように、氏の経営理念に強い意志を感じる。近年、氏の馬が、地方交流競走に大挙して出走し、他の中央馬のチャレンジのチャンスを奪っているという指摘があるが、それは出走馬を選考するJRA側の問題であり、(比較的)楽に賞金の稼げる番組があり出走させる調教師の判断は経営者として、称賛されることはあっても、非難されることはない。


 森調教師はスパルタで知られる故戸山為夫厩舎(代表馬ミホノブルボン)で助手時代の12年間を過ごした。自身が語るように、そこでの経験は非常に強い影響力を与え続けているが、調教においては、故戸山調教師を反面教師として捉えている。


 スパルタの強い調教が強い馬を造るという概念ではなく、大切なことは「馬の質と運動量である」と述べている。西高東低と言われる所以が、坂路を始めとする設備拡張だという指摘を「それ自体の効果はなかったといっていい」と反論する。しかしながら、そうした努力が馬主の目を関西に向けさせたことがたしかであると述べている。


 氏が指摘する西高東低の原因は、調教内容の違いにあるという。それは設備の問題ではなく、「一言でいえば、運動量の差が結果となって現れている」と断言する。


 森秀行藤沢和雄松田国英角居勝彦調教師らのリーディングの上位・新鋭が採り入れている調教前と調教後のケアが必ず強い馬を造るという概念は、確実に浸透し、日本の競馬界を変えているといって良いだろう。


 著作全体を通して伺える氏の主張に、一番は素材(馬自体)であるが、その素材を生かすか殺すかには、人の手による所が大きいということだ。騎手と調教師だけでなく、厩務員、調教助手、生産者、育成牧場、短期放牧先の関係者、削蹄師、馬主、良い競走馬=強い馬=稼げる馬を育むにはこれだけの人の手が介在しており、その一人一人がプロフェッショナルの仕事をしてこその結果であるという強い意志を感じた。


 百聞は一見にしかず。まずは読んでみる。素人にも玄人にも読んで損はさせない一冊であり、是非目を通すことを強く薦める。