事実とその捉え方

 ディープインパクトの勝利という事実に賞賛が送られる一方で、様々な意見が交わされる第133回天皇賞。答えがない問題だけれど、自分なりのこの悩ましさを書き残しておく。


 百人いれば百通りの受け止め方、感じ方がある。それは今さら言うまでもないこと。ディープインパクトのレースをデビュー戦からずっと見てきて、一頭の馬としてはこれまでに無いくらい勝つ瞬間のVTRをメディアを介して見せられている。


 新馬戦では、全兄ブラックタイドの残像が残っていたために懐疑的な目で捉えていたが、若駒Sからはこの馬のレースにドキドキとワクワクを感じていた。そして、それを裏切ることのないパフォーマンスを見せてきてくれた。


 初めての敗戦となった有馬記念。昨年の有馬記念と終了時点と昨日の天皇賞終了以後とは何が違うか。それは、「ハーツクライに負けた」という事実の受け止め方が変化したからではないか。それは、「ハーツクライ」という馬の受け止め方が大きく変化したことに他ならない。


 もし、昨年の有馬記念直後にハーツクライが引退していたら…と考えると深い。現実は、ハーツクライドバイシーマクラシックを制したことで、ディープインパクトの敗戦のショックが薄められ、ハーツクライが強かったor強いかもしれないという事実と推察が頭の中を二分する。


 ずっと2着続きだったハーツクライに敗れたという事実から、世界も制したハーツクライに敗れたという事実への変化。もし、2005年の有馬記念という事象だけを捉えると、ハーツクライが勝利しディープインパクトが敗れたという記録が残るのだが、ハーツクライが活躍すればするほど、ディープインパクトの評価も上がる。それと同時にハーツクライの評価もディープインパクトに引っ張られ上昇する。


 話題を少し変える。リンカーンの好走。それをレース前に見抜いていた人は素晴らしい。昨秋からの成長をきっちりと捉えていたということだろう。しかし、それだけを以ってリンカーンを軽視した人を蔑むのはどうだろう。過去の事実としてリンカーンは2年連続で1番人気を裏切ったという事実もある。


 リンカーンという馬の評価もこの一戦で急上昇した。それはディープインパクトに最も接近した馬であり、ディープインパクトに敗れはしたもののレコードを更新したから。


 確定した事実は変化しないものだけれど、それを評価する側の捉え方や事実の周辺状況が変化することによって、事実の評価が上下する。


 今回、リンカーンを軽視してレース後にその強さを認識した人は、またそこからスタートすれば良いとし、レース前から見抜いていた人はそのままで良い。


 マスコミに対して思うこと。
 私が思うマスコミの役割とは、事実を提供することだと思う。究極的な情報提供とは、あらゆる物事の壁やプライバシーを排除して、360度見渡しているカメラの映像と音声を視聴者に垂れ流しにすること。しかし、それは現実的には物理的、倫理的に不可能である。伝える側にとっても、受け取る側にとっても。だからこそ、事実を切り取り、選別し提供する人の存在が必要である。


 時はインターネットの時代。これまで特権的であったマスへの情報提供という作業が、そうではなくなりつつある。つまり、個人が不特定多数の他者への情報伝達を可能になった。


 例えば、ディープインパクト天皇賞一つを取り上げても、マスコミは賞賛一色であるけれども、インターネットの登場によって、そうではない懐疑的な意見や否定的な意見も目にすることが出来る。


 事実は事実であって、それを判断するのは受け止める側。太平洋戦争の最中、もし日本に戦地から360度カメラの映像が国民に送り届けられていたら、国民は日本の戦況を自分達で判断しただろう。さすがに、これは突拍子もない例えだったかもしれないが。


 こうした捉え方に正解はないからこそ、面白いとも言える。ディープインパクトハーツクライリンカーンの評価は、これらの馬が走るたびに、あるいは、自分が走らなくても他馬が活躍することによって変化する。その事実をどう受け止めるか、それに対する他人の意見をどう判断するするかは、受け取る側の役割。そこに答えはない。そう答えはないのだ。


 頭の悩ましさを書き起こしただけなので、まとまってない文章を読まされた人には申し訳ないですね。

 最後にクリックしていだだければ幸いです。→人気ブログランキング お手数おかけしてすいません。