名馬の墓場の日本へ? JRAがDavid Juniorを購入

 種牡馬の墓場とは、競馬を掻い摘み始めた人なら必ず耳にする言葉の一つだろうが、そこにまた一つ刺激を与えるニュースが飛び込んできた。それはJRAがDavid Junior(デヴィッドジュニア)を購入というニュースである。


 このニュースのポイントは二つある。一つは、世界でも貴重なサイアーラインの一つでもあるリボー系の後継候補を日本が買ってしまったこと。もう一つは、David Juniorと父が同じタップダンスシチーが居る日本に連れてくるということ。


 JRAが購入したということは、自動的にJBBA日本軽種馬協会の所属となり、生産者に享受されていくことになる。JBBAの役割は、HPの設立の経緯にもあるように、「種牡馬の繋養、種付、軽種馬の生産・育成・改良および防疫衛生に関する事業、せり市場の支援、育成技術者の養成、競走馬に関する情報の整備・提供などであり、これらの事業を通してわが国の競馬界の安定と拡充に貢献しています」のだそうだ。


 こうしたJBBAの活動、背後にJRAという巨大組織、母体が支えていることを民業圧迫と捉え、社台」の故吉田善哉氏は批判派の急先ぽうだった。実際、高額の種牡馬を格安の種付け料で提供すると言う手法は、かつての米価の逆ざやと全く同じで、農政そのものだったと日本経済新聞の野元記者は語る。


 タップダンスシチーサラブレッド・ブリーターズ・クラブに繋養されており、ブリーダーズスタリオンステーション(以下ブリーダーズSS)は種牡馬エージェントを行う民間の企業だ。今春、種牡馬デビューを飾ったタップダンスシチーの初年度の種付け頭数は163頭だったと言われている。


 サンデーサイレンス系が全盛の日本競馬において、異系のリボーの血を受け継ぐタップダンスシチーがこれほどの繁殖牝馬を集めるとは意外なことだと、多くのファンが思っているに違いない。しかし、生産者は、タップダンスシチーにその牧場の未来を賭けた。


 それを見たからかどうか定かではないが、大手財閥とも言うべきJBBAが世界的に見れば遥かに実績が上の、現在の欧州の2000mクラスのチャンピオンホースと言えるであろうDavid Juniorの導入に踏み切った。


 これをどう捉えるかである。日本が貴重なリボーの血をジャパンマネーで買い漁って独占しようとしているか、欧米(主にフランスやGB、アイルランドアメリカ)が異系の血を大事にしていないと見るべきか。日本競馬が現在ほど世界に知名度を残せていなかった頃に「日本は種牡馬の墓場」と呼ばれたが、実際は「名馬の墓場」であったことは日本は名馬の墓場かで書いた。


 そこからもう一度掘り起こすが、David Juniorが繁殖、種牡馬として期待されていれば、日本に売りに出されるということがまず無い。日本でサンデーサイレンス系の大物種牡馬サンデーサイレンス自身やアグネスタキオンダンスインザダークスペシャルウィークといった種牡馬が欧米に売却されないのと同様に、デインヒルサドラーズウェルズストームキャットの自身、あるいはあちらの国々で爆発的に走っている種牡馬が日本に連れて来られることはない。モンジューを売ってくれることもなければ、日本の生産者も諸手を挙げて買おうとはしないだろう。名馬=名種牡馬ではないところを曖昧に訴え続けているのが、この問題のレトリックである。


 最初に指摘したポイントに話を戻すが、一つ目の「サイアーラインの存続」という点において、日本でもリボー系の存続は難しいと言わざるをえない。それは日本に限ったことではない。リボー系Wikipedia)によると、「勢力はあまり大きくなく、2004年現在のシェアはアメリカで2%、日本で1%以下に留まっている」そうだ。日本のリボー系の種牡馬といえば、スターマンやアレミロード、もっと古くは、バンブーアトラスバンブービギン。外国産として走ったのはタイトスポットやコロニアルアフェアーだが、それらの産駒が血を継承するほどの活躍はしていない。異系であるがゆえに繁殖牝馬につけやすいのだろうが、異系ゆえに活躍馬を輩出するのが難しいというロジックがある。そうして、生産者に敬遠されていき、頭数が集まらないという状況を作り出してきたのが、これまでの状況であった。それをタップダンスシチーは初年度で163頭という花嫁を向かえて、覆そうとしているのである。それがポイントの二つ目。


 タップダンスシチー1頭でも事足りる状況であると、素人目には思ってしまうのだが、種牡馬ビジネスに関してはそうではないらしい。これはあくまでも憶測なのだが。


 個人的には、ハイセイコーオグリキャップの話を以前した時に軽く触れたが、ライトな競馬ファンやブームに乗っかってくる素人は血統構成にあまり意味を与えないと推測される。それは、競馬ブームを起こした2頭の父が外国産であり、ハイセイコーに至っては当時の良血とも言って良い背景があったと思われるからだ。その意味において、もし、これらの異系からディープインパクトのような活躍馬が出たとして、その父は欧州で競馬をしたDavid Juniorでも日本で活躍したタップダンスシチーでもそう大差はないと思う。


 テスコボーイの血はサクラバクシンオーに集約され、シンザンの血は父系から途切れようとしている(途切れた?)。そうした血の淘汰が、サラブレッドの世界では当たり前のことだ。ただ、失くしてはならない血も確実に存在するであろう。大一番に強いリボーの血。その言葉と共に、何時までも語り継がれるロマンもある。


 後記:
 あーグダグダ。最初は、David Juniorなんて連れてきちゃ駄目だろって思って書き出しただけど、向こうでさっぱり人気が出なかったんだなぁ、日本で頑張って良い仔を出して欧州に引っ張って帰ってもらえるぐらい頑張れという気に途中からなった。幸いにして、タップが大人気なようで、David Juniorも需要があるかもしれない。キャプテンスティーブ何かを絡めて書きたかったけど、それはまた後々に。まとまりの無い文章で申し訳なかった。反省してます。構成なんかは、暇を見て変えます。