曖昧さが売りのJRA賞〜年度代表馬選考に関する雑感

 去年のダート路線を表すかのような結果が出てしまった各賞。JRA賞はアロンダイト、NARはアジュディミツオー、ダート競走格付け委員会はブルーコンコルド三者三様の受賞結果が出てしまった。
 一昨年末にも同様の事を書いているが、このような結果に至る要因はいくつかある。一つ目は、JRAとNARと主催者が違うこと。二つ目は、記者の主観に依存し、投票基準が明確でないこと。三つ目は、二つ目と関連しているが競馬マスコミにとって「中央」と「地方」の「統一重賞」が名ばかりであることが挙げられる。


 大体の言いたいことは昨年に書いているのでそっちを見てもらえれば。中央と地方の壁


 統一重賞として、中央と地方のGIの格を統一しているのならば、そこでタイトルを獲た馬をJRA賞に選ぶことは当然であるし、もし統一重賞が名ばかりの制度で中央のGIと同格ではないとするならば、それを投票の基準として明示しておかなければ、各記者によって、中央競馬以外の競走を含めるかどうかが分かれる事は必定。ただ、そうして投票基準を一定にしてしまった場合、別に記者に投票していただかなくても、獲得タイトル数(GI勝利)の上位馬であったり、レイティングを採用すべきであったり。ただ、三歳でいえば、ジャパンカップ有馬記念がハイレイティングになることから、例えクラシックを制した馬がいたとしても、そこに不出走であったり、メイショウサムソンのように成績を落としてしまったりすると、GIタイトルのないドリームパスポート香港カップで2着したアドマイヤムーンよりも下に位置してしまう結果になる。
もし、現行のまま記者投票で記者の主観に委ねるなら、GI勝利は必須、年間○競走以上、海外・地方の成績は含まないなどの基準を明確にした上で、それでも寝ぼけた投票をしてくる記者さんのために気を使ってノミネート制にしてあげる。この部門の対象者はこの馬ですよというように。


 例年、二歳牡馬路線で朝日杯FS組かラジオNIKKEI賞組かでこれも票が分かれる所であるが、GIタイトルが必要であるならば何の迷いも無く朝日杯FS勝ち馬に決定するのだから投票制の必要はない。ただ、誰も全日本二歳優駿の勝ち馬に受賞資格があることを気にも留めないであろうことが、一連の投票を見る中で謎ではある。おそらく記者の脳内で全日本二歳優駿なんて無かったことになっているだろう。
 加えて、ラジオNIKKEI賞勝ち馬だけが朝日杯FS馬よりも強いという認識を受け、票を集める結果となっているが、それも記者主観というか、思い込みのようなもので、別にラジオNIKKEI賞(旧ラジオたんぱ杯2歳S)だけが選考レースではない。GI勝ち馬でなくても良いという基準なら、函館2歳Sから始まる一連のG3やデイリー杯2歳S、京王杯2歳S、東スポ杯等でハイパフォーマンスが見せられれば評価しなければならない。
 何のためのGIなのかという、それこそレース格再編を訴えるぐらいで朝日杯FS馬以外に投票している意気があるのかどうか。朝日杯FSにそれだけの価値がないなら、降格も議論のテーブルに乗せても良いと思うし、ラジオNIKKEI杯の昇格も議論しても悪くない。ただ、他の部門でGIタイトルがなければ最優秀馬に受賞資格がないような暗黙の了解がある中で、ここだけは例外のようなイメージもある。ただ、それでは何のためにレース格があり、GIであるのかという話にもなる。


 また最優秀三歳牝馬カワカミプリンセスを投票するか、フサイチパンドラを投票するかのような曖昧(今年は文句なしでカワカミプリンセスのはず)な投票も、JRA賞の基準を国内競走に限定するのか、海外も含むのか、地方も含めるのかを、各記者の主観に頼っている以上、これからも起こりうる問題であり、これまでにもエルコンドルパサーの年や、昨年のシーザリオラインクラフトの時にも起こった問題。これを先送りしてきたツケは毎年のように議論になるが変化しない所から、この賞にそれほどの影響力、あるいは価値はないのかもしれないとも思えてくる。この表彰に何の意味があるのかということすら、頭をよぎるのも無理はないと思う。
 記者主観に依存する以上、牝馬戦線の最後エリザベス女王杯馬に輝いた馬を文句なしに選ぶという記者も出てくるだろう。最後を制した者が一番強いのだと。果たして、それが良いか悪いかは、誰も決められない。そうした主観を認めている制度なのだから。


 こうして何かやるせない気持ちを抱いたところで来年も同じようが議論が起こるのが目に見えているから、それがこの時期の風物詩として残っていくのも悪くない気もする。そのおかげで記事を書ける人もいて飯が食える人もいるんだから。ある意味、誰も損しない、誰も得しない問題なのかもしれない。ただ、ブルーコンコルドの調教師は東京大賞典が終わった後に、タイトルが欲しい云々を言っていた。内部関係者にとっては一つの名誉だから、当然欲しいものの一つであるだろう。


 松永幹夫元騎手の牡馬GIの話とか、田中勝春騎手のGI連敗記録など、中央と地方の垣根を取っ払って考えると違って見える形のあるものもある。記者の中にはこのような形での投票制度を批判する人もいるだろうが、そうした人たちが、普段の地方交流競走をどのように捉えているのかにも興味があるところ。普段は中央と地方を区別しているのに、アロンダイトブルーコンコルドで比較した時には地方成績を考慮するような人もいるかもしれない。それだけ曖昧な基準でグダグダやっている賞でいいのか、いいんだろうなというのが結論。ちゃんとした基準を求めれば求めるほど、人間の主観が排除されるシステムが構築されるだろう。それが果たして良いか悪いのかは、JRAやNARと記者達が考えていく問題であり、競馬ファンにとっては、この賞はどうでもいい話である(利害が何もないという意味で)。